コラム

『福祉部長のひとり言』(37)

 

~書籍紹介~

『みな、やっとの思いで坂をのぼる-水俣病患者相談のいま』永野三智

 

12月のはじめ、今年出会った人たちの縁から導かれ、一般財団法人水俣病センター相思社に行ってきた。

これまで水俣病のことは本や映画を通じての知識しかなかったが、現地で不知火海を見て、住民の方々と同じ空気を吸うと、現実感が違う。一気に距離が近くなる。

 

 相思社に到着してすぐ、この本の著者である永野三智さんに出迎えていただき、亡くなられた方々達の位牌が並ぶ仏壇にお祈り。魚を食べて「猫てんかん」になり、また動物実験で亡くなった猫の位牌やお墓に合掌。

翌日には、相思社の敷地内で、生々しい資料を多数展示している「水俣病歴史考証館」をじっくり見学できた。

 

 永野さんは相思社で患者相談窓口を担当されている。現地で購入した著書『みな、やっとの思いで坂をのぼる-水俣病患者相談のいま』を読んだ。永野さんと出会うことができたからこそ感じられるのかもしれないが、自身と向き合い、終わらない水俣病と向き合い、時に「悶え加勢」されている。

水俣では、他人の不幸をわがことのように感じ、なんとかしたいと悶える心性の持ち主を「悶え神さん」と呼ぶそうで、「悶え加勢する」とは、苦しんでいる人がいるとき、その人の家の前を行ったり来たりして、ただ一緒に苦しむことだという。

 

 医療・福祉分野では「寄り添う」という言葉が使われる。オアシス利用者の「生きづらさ」を代わって体験することはできない。だからこそ「悶え加勢」という言葉は、「寄り添う姿勢」の基本でなければならない…と今更に思う。

 ぜひ読んでいただきたい1冊だ。

 

 追加:この本(永野さん著書)から、相思社は地域づくりにも力を入れていることがわかる。その姿勢は「安心して迷惑をかけあえる地域社会づくり」だ。インクルーシブや地域共生社会という言葉より、分かりやすい。

高槻地域生活支援センターオアシス
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